大海原を悠々と飛び回るカモメは、“海辺の鳥”の中でも一番身近な鳥です。「海辺の掃除屋さん」といわれていたり、漁を生業にする漁師にとっては魚群の位置を教えてくれたりと、ありがたい存在でもあるカモメですが、一方で、近年は都市部で生息するカモメが増え、ビルの屋上などで営巣をし生活環境上の被害が発生しているのも事実です。
今回は、日本で見られるカモメの生態や被害、対策について詳しく解説します。カモメへの理解を深めれば、共存するためのヒントが見つかるかもしれません!

カモメってどんな生き物?

01 カモメの種類と特徴

生物学的に「カモメ」と分類される鳥は世界に50種類以上も存在しており、日本でも25種類ほどが確認されています。中でも日本で見られる主なカモメは「カモメ基本8種」と呼ばれ、サイズ別に次のように分けられます。

  • 大型カモメ(60cm前後):
    セグロカモメ・オオセグロカモメ・ワシカモメ・シロカモメ
  • 中型カモメ(45cm前後):
    カモメ・ウミネコ
  • 小型カモメ(40cm前後):
    ユリカモメ・ミツユビカモメ

それぞれの特徴から「セグロ(背黒)カモメ」、「シロ(白)カモメ」などと名付けられていますが、唯一「カモメ」と名付けられた種が中型の「カモメ」です。世界的に見ると広く分布している種で、代表的な名前を付けられてはいますが、実は個体数が少なく日本ではなかなか見られないめずらしいカモメなのです。

カモメの種類の中で、日本でもっとも多く見られるのは、中型カモメの「ウミネコ」です。

02 日本で見られるカモメの生態

今回は日本で多く見られる「ウミネコ」を含む「カモメ」の仲間全般の生態について紹介します。

  • 多くの種が冬に日本に来る渡り鳥
    日本で見られるカモメの多くは冬に日本などの温帯地域へ渡ってくる冬の「渡り鳥」です。「渡り」をするカモメの主な生息地、繁殖地はシベリアやアラスカ、カナダ、北アメリカ、ユーラシア大陸北部などで、冬になると日本をはじめ、中国・アメリカ西部・ヨーロッパ北部などに渡ってきます。
    「カモメ基本8種」の中で「ウミネコ」と「オオセグロカモメ」だけは一年中日本で過ごす「留鳥(りゅうちょう)」です。
  • 何でも食べる雑食性
    カモメの主食は海面にいる小さな魚やカニなどの甲殻類です。さらに、オキアミなど釣りのエサや、河口に打ち上げられた魚や動物の死骸、沿岸部の穀物や果実まで、何でも食べる雑食性です。人間の食べ物を食べることもあります。
  • 大きさ
    前述の通り体長は種類によって異なります。日本にいるカモメの仲間は「40cm〜70cm前後」で身近な鳥の中ではカラスよりも大きい大型の鳥といえます。
  • 群(むれ)を作り集団で行動する
    カモメのほとんどが群を作り生活しています。ウミネコの群れにカモメ、オオセグロカモメの群にワシカモメが混じるなど、他のカモメ類と混群を作っていることもあります。採食行動も集団で行い、海面の近くに上がってきたの小魚を空から狙います。鳥が水面付近に山のように集まっている「鳥山」という状態は、釣りや漁をする人にとっては絶好の目印になります。
  • コロニーで集団繁殖
    カモメは春から夏の繁殖期になると、水辺近くの崖、岩場、草原などに集団繁殖地(コロニー)を作ります。「渡り」をするカモメは冬にしか来ないので日本で営巣をすることはほぼありませんが、「留鳥」であるウミネコやオオセグロカモメはビルの屋上などで営巣をすることがあります。
  • カモメの高い学習能力で生息地が変わってきている?
    「人が多くいる場所には食べ物も多い」ということをカモメが学習し、食べ物に困らない都市部に生息するカモメが増加しているとの報告もあります。

03 “夏の海で見るカモメ”は、実は「ウミネコ」だった!?

「ウミネコ」の漢字表記は「海猫」。その名の通り鳴き声が「ミャー」「ミャーオ」と聞こえます。ウミネコはカモメの仲間の中でも個体数が多く、日本各地の沿岸部や河口で一年中見ることができます。
「渡り」をするカモメは夏には北に渡るため、もし夏の海で「カモメを見た!」と思ったとしても、実はそのほとんどが「ウミネコ」である可能性が高いのです。

【ウミネコとカモメの違い】

■ ウミネコは黄色いくちばしに黒帯と赤斑がある
□ カモメのくちばしは黄色一色

■ ウミネコは目の周りに赤いアイリングがある
□ カモメの目の周りにはアイリングはない

■ ウミネコは体長44~48 cm
□ カモメは体長40~46 cm

■ ウミネコの尾羽には黒い帯がある
□ カモメの尾羽には黒い帯がない

■ ウミネコは「ミャー」「ミャーオ」と鳴く
□ カモメは「キュー」「クゥー」と鳴く

04 カモメと人の関わり

西洋ではカモメは「海と航海」を象徴することから、海で死んだ水夫の魂が姿を変えたものだと伝えられ、むやみに殺すことは不吉であり、家の窓にカモメがぶつかると良くないことが起こるといわれているそうです。

カモメは砂浜に打ち上げられた魚や動物の死骸や、河口に流れ着いたゴミ、そこに集まる虫など、何でも食べる習性があります。この習性によって、カモメが多く集まる海や漁港が綺麗に保たれているといえるため、「海辺の掃除屋さん」とも呼ばれています。

また、漁師にとってカモメは魚の群の位置を教えてくれる、漁に欠かせない大切な存在です。「鳥害なんてとんでもない!カモメは俺たちの神様だ」と語る漁師もいるほど、人に利益をもたらしているカモメですが、一方で人が環境を変化させたことにより数が増え、糞害など人との摩擦が問題視されるようになりました。これは雑食性のカモメが、人が捨てた食べ物を求め、群で集まるようになったことが原因でもあります。

カモメによる被害とは?

フジナガでは「ウミネコ」を含む「カモメ」の仲間全般の被害に悩まされている方からの相談も寄せられます。その一例を紹介します。

  • 漁港や海辺の水産加工場での食害
    漁港・市場では水揚げや出荷の時間になると食べ物を求めてカモメが集まってきます。その際、捨てた魚だけでなく、商品となる魚を食べてしまうこともあります。また、水産加工会社からでたくず肉などの廃棄物を狙うことも多く、食べ残しが散乱するなどさまざまな問題が発生しています。
  • 海辺の工場や倉庫などでの糞害
    カモメが海辺の工場、倉庫の周辺に止まることによる糞害が報告されています。例えば輸出車のモータープール周辺に建てられている防風ネット上部の鉄骨にカモメがずらりと止まり、周囲に糞害が発生したケースもあります。建物の周辺に何百羽のカモメの大群が止まることもあり、その糞で屋根が真っ白になることもあります。糞により屋根が傷み、数年に1度屋根の塗装をし直す必要が出てくるなど、大きな損害に繋がるケースが少なくありません。
  • 都心部の屋上緑化ビルにウミネコが営巣
    本来は海辺に生息するカモメですが、都市部のビルやマンションの屋上に巣を作ってしまうケースが増えています。近年ではウミネコが都心部の緑化されているビルの屋上で巣を作っているというニュースが注目を集めました。ウミネコにとっては「そこが安全で快適な場所だったから巣を作った」という本能ゆえの行動でしょうが、周囲では大量の糞や鳴き声による騒音などの生活環境被害が発生してしまうのも事実です。

カモメに有効な対策

他の鳥と同じく、カモメも「鳥獣保護管理法」によって許可なく捕獲や殺傷、卵やヒナの捕獲、子育て中の巣の撤去は原則禁止されています。フジナガでは、「ウミネコ」を含む「カモメ」の仲間全般を傷つけない対策を行っています。
対策としては、カモメが止まるのを物理的に防ぐことが重要です。カモメが様子を見るためにいったん止まる屋根の端などに、防鳥ピンや防鳥ワイヤーを設置する対策が主流です。カモメは足が長く体も大きいため、カモメに適した防鳥ピンの長さやワイヤーの高さ、太さを選ぶことがポイントになります。

フジナガでは、横幅200mm、高さ135mmでカモメのように足が長く大型の鳥にも対応した防鳥ピン、BF3バードピン(オールステンレススーパーワイド)を使用します。

BF3バードピン(オールステンレススーパーワイド)

防鳥ワイヤーは、カモメの体や羽根に確実に当たる高さで設置する必要があります。フジナガでは屋根から40~50cmくらいの高さに4~6mmの太めのワイヤーを張り巡らせ対策しています。

BSバードワイヤー

カモメの対策は難しい!

カモメは体が大きく、重さもあるので、強度の弱い防鳥ピンや防鳥ワイヤーでは踏み潰されてしまうことがあります。また、カモメは足も長く、3本の趾(あしゆび。足のつま先に該当する部分)にまたがって水かきがあるせいか、残念ながら電気ショックにはあまり効果がみられません。
フジナガでは、音や光、匂いなど新たなアプローチによる対策を日々研究しています。

これからもカモメを傷つけることなく、「鳥と人との共生」を軸に、鳥害対策に取り組んでいきます。